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触れてはいけない。

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触れてはいけない。


 




暦は既に12月にはいり、
今、人族の作りし王国、フォートディベルエは、
何処もクリスマスムード一色で染まっている。
首都シュテルーブルに居を構える個人冒険者ギルドの一つ、
ZempことZekeZeroHampも例外ではない。
基本的に年明けまで、冒険者活動は休業となり、
実家に帰るもの、そのまま居残るものと過ごし方は様々だが、
誰もが均等に楽しいクリスマス休暇となった、
はずだったのだが。

「くっそ~!
  どいつもこいつもイチャイチャと!
  バカップルめ! 性クリスマスの廃棄物め!
  滅びろ! はぜろ! 爆発しろ!」
窓の外を通り過ぎる恋人たちに、
醜い嫉妬の念を飛ばしているのは、
当ギルドの筆頭アサシン、ジョーカー・ペンドラゴンである。
何故、こんなのが筆頭なのかと言えば、
他にアサシンがいないからだ。
むしろ、シーフ系職の技術力評価は、
何故か上級騎士のはずの祀に軍配が上がり兼ねない状態であり、
どちらかといえば、下ネタ、セクハラ、
学習力皆無筆頭が周囲の認識となっている。
そして、それが強ち間違いではない事を、
自ら証明しちゃうのが彼という男だった。

宜しくないことにジョーカーはそんな自分が結構好きだった。
従って見苦しいとか、みっともないとか、
そんなことは全く気にせず、クリスマスが終わったあとも、
自分を差し置いて幸せそうな余所様に、
ブーブー八つ当たりをし、運悪くその場に居合わせてしまった、
友人で白魔導士の紅玲に怒られるのであった。
「よしなさいよ、ジョカさん。
  いつものこと過ぎるから。」
紅玲から見ればクリスマスのためだけに恋人を作ったり、
その関係を惰性で維持するほうが、
一人きりの休暇を過ごすより、
よほど馬鹿らしく寂しい選択である。
しかし、このアサシンはそう思わないらしく、
迷惑なことにクリスマス前から終わった今日まで、この調子なのだ。
自然、苦言も一風変わった台詞になってしまう。
そして、返ってきた解答も何時もの如く反省の欠片もなかった。
「だって、あいつら如何わし過ぎるんですよ!
 クレイさん、ボク達はあんな薄い関係では到底たどり着けない、
 熱い濃密な甘い夜をベットの上で過ごしましょうね!
 いや、夜まで待たず、今からでも…!」
「つまり、ユッシンや千晴と一緒にクリスマスも正月もない、
 お仕置き部屋で年越しがしたいと。」
「あ、ごめんなさい。何でもありません。」
他ではセクハラ以前の問題となろう発言に、
全く動じず紅玲は対応し、
ジョーカーも即座に発言を取り下げた。

そう、こんなのは彼らにとって、
常時行っている軽口の言い合いで、なんの意味もなかった。
ただ、余り紅玲に絡みすぎると実際にお仕置きされる危険があり、
先日、欲にかられてやらかした連中の、
巻き沿いになるのは真っ平御免であったので、
ジョーカーが絡み先をニコニコ二人のやりとりを観ながら、
酒を飲んでいたフェイヤーに換えたのも、
ただ、彼がそこにいたからだった。

「全くクレイさんったら、素直じゃないんだから。
 そう思いませんか、フェイさん?」
「まぁ、良いじゃない。
 敦君やユーリさんは実家に帰っちゃってるけど、
 クリスマスパーティーは楽しかったし。」
「それが問題なんじゃないですか!
 ユーリさんが居ない、これは大問題ですよ!!」
端から聞いているぶんには繋がっていない会話であったが、
当人たちには問題なかった。
紅玲が素直じゃないのも、ジョーカーが相手にされないのも、
語るまでもない日常であって、
要は恋人が居なくて、
ギルドの心のオアシスも不在で、
男ばかり、しかも少数での年越しはつまらん。
それがジョーカーが言いたい文句の根本であることも、
明らかだったからだ。

「全く、ヒゲの奴も年末はこっち来ないらしいし、
 カオスさんやきいたんも、実家帰るっぽいし。」
「あー それでご機嫌斜めなのね。寂しいのね。」
相方で親友のヒゲが居ないのはつらかろうと、
フェイヤーに憐れみの視線を送られ、
ジョーカーは大きな声で反論する。
「寂しくなんかありません! つまんないだけです!」
「それを世間一般では寂しいというのだよ。」
横から紅玲にも突っ込まれ、ジョーカーはますますムキになる。
「寂しくなんかないっていってるでしょ! 
 …あ、そうなんです! ボクは寂しいと死んじゃうんです!
 クレイさん、慰めて!! 熱くその胸で包み込んで!」
「つまり、棺桶に入るから釘を打てと。」
「ごめんなさい。本当にもう言いません、マジで。」
途中でいつものセクハラに切り替えたせいで、
紅玲の対応がますます冷たくなった。
間接的に「死ねよ」と言われ、これ以上彼女に絡むのはやめようと、
ジョーカーは改めて心に刻む。

「でもさー フェイさんも思うでしょ?
 彩りのない生活はつまんないって。」
「んー 別に?」
恐らく5分と持たない決意の元に、
ジョーカーはギルドマスターを突っつき、
簡単にはね除けられた。
望んだ対応が得られないことにふてくされ、
同時にアサシンはギルマスの周りで、
浮いた話を聞かないことに気がつく。
「あ、そんなこと言って、
  実は裏でそう言う人がいるんでしょ!?
 ねえ、どんなひと? 美人?」
他に優秀なメンバーがバリバリ働くおかげで、
身内にこそ、ギルドマスターとして微妙呼ばわりされるが、
フェイヤーが腕の良い冒険者であることは間違いない。
周囲の評判は勿論、顔立ちだって悪くはないし、
巷の女性がほっておくはずがなく、
公にしていないだけで、そう言う相手がいると考えるほうが自然である。
そんな予測を元に聞いてみるが、フェイヤーは笑っていうのだ。
「居ないよ、そんな人。」
「なんでさ!」
「なんでと言われてもねえ。」
プンスカ怒るアサシンに、ギルドマスターは眉尻を下げた。
「いないから、いないんだよ。」
「どうして! 男なら彼女がほしいなって思うときがあるでしょ!
 なんで作んないの!?」
「んー まあ、ねえ。でも、カオスさんほどじゃないけど、
 僕も正直どうでも良いかなー」
気のない態度を取るフェイヤーに、
返ってジョーカーの好奇心は刺激された。

「カオスさんは特殊でしょ!
 それだって、あちこちで遊んでいるらしいじゃん。
 フェイさんだっていい歳なんだし、なんかあるでしょ、そう言う話!」
現在不在の居候は、彼の中の重要事項以外に殆ど興味がない上に、
ある種の潔癖症なきらいがある。
しかし、それいて全く女関係がクリーンなわけでもないらしい。
ならばごく普通の一般男性であるフェイヤーは、
もっと何かしらあるだろうと、深い他意のない質問は軽く受け流された。

「ないねえ。僕はお酒と結婚してるから。」
「そんなはずないでしょー!」
確かにうちのギルマスは血液の95%がアルコールで出来ていると、
メンバーたちがこぞって証言する酒好きだ。
体調や飲んだ結果を心配する周囲に怒られながらも晩酌を欠かさないし、
普段から繁華街をウロウロしている。
一歩踏み込んで考えれば、それだけ外出しているわけで、
出会いの場も少なくなかろうに、浮いた話の一つもないとはどういうことか。

納得の行かない回答ばかりに、ジョーカーは唇を尖らせ、
不信と不満と疑問で頬を膨らませた。
だが、フェイヤーに嘘をついている様子はない。
これはどういうことか。
うーんと悩んで、今がだめなら過去はと思いつく。

フェイヤーの歳など気にしたこともないが、恐らく30代前後。
30年も生きていれば、
絶対に何かしらあるべきであり、
むしろ、過去に何かあったからこそ、
今、何もないのではないか。
いや、そうに違いない。
これは良いことに気がついたと、
ジョーカーはほくそ笑む。
上手くやれば、普段のほほんとしたポーズを崩さないギルマスを、
慌てさせることが出来るのではないか。

ジョーカーにしては、面白いネタに行き着いた程度の感覚であり、
悪意は愚か、深い考えも何もなかった。
だが、取り上げようとした事例について、
何故聞いたことがないのか、誰も話題にしないのか、
せめて良いことか、悪いことなのか、想像や配慮をすべきであった。
日々の退屈を紛らわす、ちょっとした悪ふざけの一貫が、
今までどんな結果を彼にもたらしたか。
人の過去を不用意に弄るとどうなるのか。
これらを顧みないのが、学習力皆無と言われる最大の原因であろう。

「じゃあさ、じゃあさ、昔はどうなの?
 いたんでしょ、そう言う人の一人や二人ー!」
「昔?」
怪訝そうな顔をしたフェイヤーを、
何をしらばっくれているのかとジョーカーはニヤニヤ笑って突っついた。
「そうそう! 実家に居た頃とか学生時代とか!
 結構彼方此方、旅もしてたんですよね? その頃も!
 一人も居ないとは言わせませんよ! 
 今日は是非とも詳しく話していただきますからね!」
何時ものようにのらくらはぐらかされるものかと、
逃げ道も塞いだつもりで、ジョーカーは囃し立てる。
「居たでしょ! そのあと、彼女を作るつもりになれないくらい、
 素敵な人が! どんな人? 美人だった? どこで出会ったの!?
 なんで別れちゃったの!??」
「素敵な人? 出会った時? 美人? なんで別れた?」
言われた言葉をそのままフェイヤーは繰り返し、
一言ごとに顔から表情が抜けていった。
ねえねえと急かすほど、
ギルマスが能面のように冷たく、
無表情になっていき、漸く異変にジョーカーは気がつく。

あれ? なんか、やばくない?

「あーでも、触れられたくない過去って、誰しもあるよね。
 やっぱり良いで…」
「ふふ。うふふ。」
ジョーカーが退避の言葉を口にしたのと、
フェイヤーの唇から楽しそうな笑みが溢れたのが、
ほぼ、同時だった。
実に楽しげな微笑みに、胸を撫で下ろしたのもつかの間、
フェイヤーの眼には全く笑っていないどころか、
なんの感情も浮かんで居ないことに、ジョーカーは気がついてしまう。
「あのー フェイさん?」
「ふふふ。あはっ、あははは。っくく、うくくくく。」
「フェイさん? フェイさん!? ちょっと、フェイさん、どうしちゃったの!?」
「あははははは! ははっ! あーはははははははははははは!」
「フェイさん!!? フェイさーんっ!!!!」
「あーっはっはっは! あはははははははははははははははははははははははははははははははは」
止めどなく溢れ続ける笑い声に、ジョーカーは慌て、
なんとかフェイヤーに正気を取り戻させようと、
必死で肩をゆすり、話しかけ、名を呼んだが、
効果はなかった。

「あはははははははははははは! 
 あーっはっはっはははははははははははっはあはははははっははは…」
「ちょっと、フェイさん、フェイさん、しっかりして!
 クレイさん! フェイさんが、フェイさんがー!」
自分の手には負えないと、
台所で片付けをしている友人にジョーカーは助けを求めた。
しかし、返ってきたのは冷たい対応であった。
「まったくもー 何やってるんだか。
 知らんよ、うちは。自分でなんとかしなさい。」
「でも! でも!!」
軽く突き放されて、ジョーカーは慌てる。
同じ部屋に居て、同じ現象を見ているのに、
何故、彼女はこうも落ち着いていられるのか。
まるで軽いイタズラや失敗の対処を求められたかのようだ。
「だってフェイさん、なんかおかしいよ!」
必死に泣きついてみるが、その冷静さは変わらない。
「はいはい、そうねー フェイさんはお酒飲むと何時もおかしいねー」
「いや! そう言うんじゃなくて!」
ろくに顔も向けようとしない友人に、別の焦りを抱えながら、
ジョーカーはフェイヤーと紅玲の顔を交互に見た。
そうしている間にも、ギルドマスターの笑い声はますます大きく、
病的で乾いたものになっていく。

余りにとめどなく、終わりの見えない笑い声に、
背筋がどんどん寒くなっていくのを感じながら、
ジョーカーは必死で訴えた。
「ほら! 見てくださいよ! 絶対これはまずいよ!
 おかしさを通り越して、やばいって! フェイさんが壊れちゃったってば!」
「元から壊れているようなもんじゃない。
 酒の飲み過ぎで。」
対する紅玲は欠片も平静を崩さない。
彼女は普段から、ジョーカーを含めたメンバーたちの悪ふざけや、
悪意はない問題行動と解決、及び収拾に散々つきあわされている。
加えて、元所属ギルドの補助や相談対応も行い、
ついでに世界最強最悪の魔王の弟子もやっているため、
他に類を見ないほどの場数を踏んでおり、
何事にも動じない、冷静さで高い評価を得ているが。

何が起きても落ち着いていれば良いというものではないし、
この異常性に動じない精神というのも、それはそれで嫌である。

せめてジョーカーにも問題行動を引き起こした場合や、
彼以上の問題児な友人がいる環境から、
現状に活かせる経験があれば良かったのだが、
残念なことにそんな要領の良さは、
持ち合わせていなかった。
彼に出来たのは精々、異常性を主張することだけである。
「でも、クレイさん! 本当におかしいですって!
 なんか、なんか、部屋の空気が変わってきてる!
 時空が歪んできてる気がする!」
「大丈夫よー ほっとけば大いなる流れが勝手に自動修正するでしょ。」
「また、そんなこと言って! 
 猫が飛び出て歴史が変わっちゃったらどうするんですか!
 あれ? なんか紫の光がバチバチ言い始めたよ!!?」
「ああねー 召喚されるのは魔王かね。それとも勇者かね。
 ま、その時は、魔王つながりで師匠にどうにかしてもらおう。」
「そんな悠長な! カオスさんだって出来ることと出来ないことがあるでしょ!」
「大丈夫、大丈夫。こないだハゲのヒーローでも出てこない限り、
 どうとでもするって言ってたし。」
「へー じゃあ、尻尾の生えた宇宙人ならどうなんですかね?
 …って、そうじゃなくてさーっ!!」

フェイヤーの笑い声に、ジョーカーのヒステリーじみた悲鳴が混ざり、
むしろ、何かが起こらない方がおかしい状況となってはいたが、
やはり紅玲は動じなかった。
どれだけ異常でも、慣れてしまえば人間こんなものである。

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